
研究業績Publication
in press
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Terada S, Nishimura H, Miyasaka N, Fujiwara T. Heat Stress and Placental Abruption: A Space–Time Stratified Case‐Crossover Study. BJOG: An International Journal of Obstetrics and Gynaecology. (in press)
日本語アブストラクト
「暑さ指数と常位胎盤早期剝離の関連」
【背景】
近年の気候変動により、暑さが妊婦や胎児の健康に与える影響が注目されている。「常位胎盤早期剝離」という、胎盤が出産前にはがれてしまう重篤な合併症について、暑さとの関係はこれまで不明だった。
【目的】
妊娠中に強い暑さにさらされると、1週間以内に常位胎盤早期剝離が起こりやすくなるかどうかを調べることを目的とした。
【方法】
2011年から2020年の夏季(6月〜9月)に、日本全国11地域で出産した6,947件の常位胎盤早期剝離のデータを使用した。WBGT(湿球黒球温度)という、気温・湿度・日射を総合した熱ストレス指標(いわゆる暑さ指数)を用いて、その日の暑さが発症に与える影響を、最大7日間の遅延効果を考慮して解析した。分析には、ケースクロスオーバー法という統計手法を使った。
【結果】
強い暑さ(暑さ指数95パーセンタイル以上)の翌日には、常位胎盤早期剝離のリスクが23%高まることが確認された。一方で、その2日後にはリスクがやや下がる傾向も見られ、1週間全体で見るとリスクの増減が打ち消し合うような形となっていた。妊娠週数による違いは大きくなかったが、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全がある妊婦では、暑さの翌日にさらに大きくリスクが上昇していた。
【結論】
妊娠中に強い暑さにさらされると、その翌日に常位胎盤早期剝離が起こるリスクが高まり、もともと起こるはずだった胎盤早期剥離の発症時期が暑さにより1日程度早まってしまう可能性が示唆された。とくに妊娠高血圧症や胎児発育不全がある妊婦では、暑さへの注意がより重要と考えられる。 -
Terada S, Nishimura H, Miyasaka N, Fujiwara T. Drops in atmospheric pressure and subsequent fluctuations in daily delivery volume: A case-crossover study. Paediatr Perinat Epidemiol. (in press)
日本語アブストラクト
「大気圧の低下とその後の分娩数の変動: ケースクロスオーバー研究」
【背景】
分娩数の変動は、産科医の負担やバーンアウトにつながりうる。台風やハリケーンなどによる大気圧の急激な低下は、その後数日間の分娩数の増加と関連している可能性があるが、遅延効果を考慮した研究はほとんどなかった。
【目的】
大気圧の低下が、自然陣痛発来による分娩数の変動と関連しているかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
ケースクロスオーバー研究を行った。2011年から2020年までの47都道府県の自然陣痛発来による分娩数のデータを、日本周産期登録ネットワークのデータベースから取得しました。Distributed lag non-linear modelを用いた疑似ポアソン回帰モデルで、大気圧の低下(-13.8 hPa、1パーセンタイルに相当)と一日当たりの分娩数の関連を、分娩前最大14日間の期間にわたって検討した。都道府県ごとの推定値をランダム効果メタアナリシスで統合した。また、妊娠週ごとの層別解析を行った。
【結果】
1,074,380件の自然陣痛による分娩を対象に解析した。自然陣痛発来による分娩のラグ累積相対リスクは、分娩前4日間の遅延効果を考慮した時に最も大きかった。特に、妊娠38週から40週において、気圧低下と分娩数の関連が強く見られた。具体的には、-13.8 hPaの気圧低下による0〜4日間のラグ累積相対リスクは、気圧変化がなかった場合と比較して、妊娠38週で1.07(95%信頼区間1.00, 1.14)、妊娠39週で1.08(95%信頼区間1.02, 1.14)、妊娠40週で1.10(95%信頼区間1.03, 1.19)だった。
【結論】
大気圧の低下は、特に妊娠38~40週において、その後数日間における自然陣痛発来による分娩数のわずかな増加と関連していた。 -
Nawa N, Nishimura H, Fushimi K, Fujiwara T. Association Between Heat Exposure and Intussusception in Children in Japan from 2011 to 2022. Pediatric Research. 2025; (in press)
日本語アブストラクト
「暑熱と子どもの腸重積症の関連」
【背景・目的】
暑熱への暴露は、食事内容や腸管蠕動の変化を含むさまざまなメカニズムにより、子どもの腸重積症のリスクを高める可能性があります。しかし、日ごとの暑熱への暴露と子どもの腸重積症の入院リスクとの関連を調査した全国的な研究はこれまで行われていませんでした。本研究は、高い気温と子どもの腸重積症との関連を検討することを目的としました。
【方法】
2011年から2022年までの5歳以下の子どもの腸重積症による入院患者数を、DPCデータベースから抽出しました。1日の平均気温は気象庁のデータを活用しました。本研究では、暑熱への曝露に焦点を当てるため、分析では最も気温の高い5か月間(5月~9月)に発生した入院について検討しました。熱への曝露による腸重積症の相対リスクを、時間層別化ケースクロスオーバー法により推定しました。
【結果】
研究期間中の腸重積症による子どもの入院患者は13,083人でした。日平均気温が高いと、腸重積症による入院リスクが高くなることが分かりました。特に、99パーセンタイルの極めて高い日平均気温にさらされると、入院リスクが39%増加することが分かりました(95%信頼区間: 5%〜83%)。
【結論】
この研究では、日平均気温が高いと子どもの腸重積症による入院リスクが増加することがわかりました。今後の研究では、高い日平均気温と子ども腸重積症による入院リスクとの関連のメカニズムを解明する必要があります。 -
Nawa N, Okada E, Akashi Y, Kashimada A, Okada H, Okuhara T, Kiuchi T, Takahashi M, Ohde S, Fukui T, Tanaka Y, Yamawaki M. Analysis of the Growth Trajectories of Junior Residents in Japan: A Longitudinal Cohort Study Utilizing Data from a Nationwide E-Portfolio System (EPOC2). BMJ Open. (in press)
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Maeda Y, Morita A, Nawa N, Yamaoka Y, Fujiwara T. The Risk of Self-stigma and Discrimination for Healthcare Workers in Developing Countries during COVID-19 pandemic: International multisite study. Stigma and Health. (in press)
日本語アブストラクト
「COVID-19パンデミック中における途上国の医療従事者のセルフスティグマと差別に関する国際比較:国際多施設共同研究」
【目的】
本研究の目的は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に、発展途上国と先進国の医療従事者とその家族に対するセルフスティグマと差別の有病率を比較することである。
【方法】
2020年8月から10月にかけて、ブラジル(n=55)、ガーナ(n=61)、インド(n=99)、メキシコ(n=27)、ミャンマー(n=35)、日本(n=55)の医療従事者を対象とし、スノーボール・サンプリングを用いて参加者を募った。
医療従事者とその家族におけるセルフスティグマと差別経験を測定するために、3項目の質問を含むオンライン質問票を用いた横断研究を行った。多変量ポアソン回帰モデルを適用し、年齢、性別、職業、都道府県のCOVID-19患者数、心理的苦痛(Kessler-6スコア≧13と定義)を調整した上で、日本を対照群として6カ国間のセルフスティグマ、及び医療従事者とその家族に対する差別の頻度を比較した。
【結果】
6カ国より合計336件の回答が得られた。全体では、セルフスティグマを経験した医療従事者の割合は69.9%(235/336人)、差別を経験した医療従事者の割合は38.7%(130/336人)、差別を経験した医療従事者の家族の割合は14.3%(48/336人)であった。日本と比較して、インドとミャンマーは医療従事者とその家族に対するセルフスティグマと差別の有病率が有意に高かった。また、ブラジルとガーナは医療従事者に対する差別の有病率が有意に高く、メキシコはセルフスティグマの有病率が有意に高かった。
【結論】
医療従事者とその家族に対するセルフスティグマと差別の有病率は、COVID-19パンデミック期間中、日本よりも発展途上国で高かった。パンデミック時の医療従事者の健康と安全を確保するためには、医療従事者に対するスティグマと差別を防止するための対策を実施する必要がある。