Isumi A, Fujiwara T, Kato H, et al. Assessment of additional medical costs among older adults in Japan with a history of childhood maltreatment. JAMA Netw Open. 2020;3(1):e1918681. doi:10.1001/jamanetworkopen.2019.1868
【背景】
幼少期の被虐待経験はその後の健康に長期的な影響を与え、高齢期にまで及ぶ可能性が示唆されている。しかし、医療費への影響について議論している海外の先行研究においても、高齢期の医療費に与える長期的影響を検討した研究はほとんどない。さらに日本においては、幼少期に虐待を経験した人に実際にかかる医療費は不明のままである。
【目的】
そこで本研究では、日本の高齢者のコホート研究JAGES(Japan Gerontological Evaluation Study;日本老年学的評価研究)のデータとJAGES参加自治体の健康診査データ・レセプトデータを用いて、幼少期に虐待を経験した高齢者とそうでない高齢者の医療費を算出・比較することによって、幼少期の被虐待経験が高齢期の医療費へ与える影響を検討することを目的とした。
【方法】
JAGES2013年度調査データとJAGES参加自治体である政令指定都市A市の2012・13年度のレセプトデータを連結した(N=5,155)。国民健康保険特定健康診査データを用いて国民健康保険の非加入者と特定できる者を除外した(2012・13年度それぞれN=66)。さらに、幼少期の逆境体験に関する質問項目に対して回答を求められていない者(N=4,143)および無回答であった者(N=34)を除いた、978名を本分析の対象とした。分析にはt検定および一般化線形モデル(GLM)を用いた。
【結果】
検定の結果、家庭内暴力の目撃、身体的虐待、心理的ネグレクト、心理的虐待いずれかの虐待を受けていた高齢者(N=176,18.0%)の年間医療費は549,468円であり、そうでない高齢者より136,456円(33%)高かった(p=0.007)。虐待の種類別では、身体的虐待と心理的ネグレクトを受けた高齢者の年間医療費は、そうでない高齢者より有意に高いことが明らかになった(それぞれ医療費の差295,148円,p=0.04; 医療費の差161,400円,p=0.008)。GLMを用いて高齢者の年齢と性別を調整しても、いずれかの虐待を受けていた高齢者の年間医療費は、そうでない高齢者より116,098円高いことが示された(p=0.03)。
【結論】
幼少期の被虐待経験は高齢期の医療費を有意に増加させることが示された。これらの関連が因果関係であると仮定すると、幼少期の被虐待経験によって生じる高齢者の医療費は日本全体で約3,330億円に上ると試算できる。