Tani Y, Suzuki N, Fujiwara T, Hanazato M, Kondo K. Neighborhood Food Environment and Dementia Incidence: the Japan Gerontological Evaluation Study Cohort Survey. Am J Prev Med , vol.56,383-392 (2019)
■背景
近隣の食料品店へのアクセスの悪さが健康に悪影響を及ぼす可能性が報告されていますが、認知症のリスクに ついては分かっていません。そこで、日本の高齢者を対象に、近隣の食料品店の数と認知症との関連について追跡 調査をしました。
■対象と方法
2010年に実施したJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study, 日本老年学的評価研究)調査に参加した 65歳以上の高齢者を約3年間追跡し、近隣の食料品店の数と認知症発症との関連について分析しました。性別、 年齢、認知症、近隣の食料品店の数の情報が得られており、歩行・入浴・排泄に介助が必要な人を除いた49,511 名のデータを使用しました。近隣の食料品店数は、主観的方法と客観的方法の2通りで測定しました。主観的方法 では「あなたの家から1キロ以内に、新鮮な野菜や果物が手に入る商店・施設はどのくらいありますか」という質問に 対し、4段階の選択肢「たくさんある、ある程度ある、あまりない、まったくない」を用いて4群に分けました。客観的方 法では、参加者の居住地の半径500m内にある生鮮食料品店数をGIS(Geographic Information System)により算 出し、四分位で4群に分けました。認知症は介護保険賦課データにある「認知症高齢者の日常生活自立度」のラン クⅡ以上と定義しました。認知症リスクは年齢、年齢、性別、教育歴、経済状況、同居の有無、婚姻状況、就労状 態、車の利用、バス電車の利用、在住都道府県の影響を調整して統計学的な評価を行いました。
■結果
主観的方法と客観的方法の両方で測定した食料品店の数が認知症リスクと関連がありました。主観的方法で は、近隣に野菜や果物が手に入る店が「たくさんある、ある程度ある、あまりない、まったくない」と回答した人がそれ ぞれ7,898人、30,013人、8,935人、2,665人でした。そのうち、約3年間の追跡期間中に認知症となった人が381 人、18,16人、701人、264人でした。客観的方法では、居住地の半径500m内にある食料品店数が多い群から順 に12,375人、12,010人、12,685人、12,441人であり、認知症となった人が508人、781人、943人、930人でし た。年齢、性別、教育歴、経済状況、同居の有無、婚姻状況、就労状態、車利用、バス電車利用、在住都道府県 の影響を取り除いて解析した結果、主観的方法では近隣の野菜や果物が手に入る店が「たくさんある」と回答した人 に比べ、「ある程度ある」「あまりない」「まったくない」と回答した人の認知症リスクはそれぞれ1.2倍、1.4倍、1.7倍で した。客観的方法では居住地の半径500m内にある食料品店数が最も多い群に比べ、少ない群の認知症リスクは 1.3から1.5倍でした。
■結論・本研究の意義
近隣の食料品店へのアクセスの悪さが認知症リスクとなる可能性が示されました。また、レストランなどの飲食店 やコンビニエンスストアではなく、食料品店へのアクセスが認知症に重要である可能性が示唆されました。徒歩圏内 に食料品店が存在することが認知症予防に重要かもしれません。