お知らせ

2020.02.12

論文「子どもの頃の逆境体験と高齢期の認知症発症との関連」がアクセプトされました

■背景
子どもの頃に親との離別、虐待、ネグレクトや家庭内暴力などを経験していると、生涯にわたる健康リスクがあることが知られています。また、子どもの頃の逆境体験は脳構造にも影響を与えることが報告されています。しかし、子どもの頃の逆境体験が認知症にも影響を与えるのかはよくわかっていませんでした。そこで、日本の高齢者を対象として子どもの頃の逆境体験と認知症発症との関連について検証しました。

■対象と方法
2013年に実施したJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study,
日本老年学的評価研究)調査に参加した65歳以上の高齢者を約3年間追跡し、子どもの頃の逆境体験と認知症発症との関連について分析しました。性別、年齢、認知症、子どもの頃の逆境体験の情報が得られており、歩行・入浴・排泄に介助が必要な人を除いた
17,412名(男性8,131名、女性9,281名)のデータを使用しました。子どもの頃の逆境体験は、18歳になるまでの間に7つの項目(①親の死亡
②親の離婚 ③親の精神疾患 ④家庭内暴力の目撃 ⑤身体的虐待 ⑥ネグレクト
⑦精神的虐待)を経験したかどうかを質問し、当てはまる数を合計しました。認知症は介護保険賦課データにある「認知症高齢者の日常生活自立度」のランクⅡ以上と定義しました。認知症リスクは年齢、年齢、性別、教育歴、子どもの頃の経済状況、身長(子どもの頃の栄養状態)を調整して統計学的な評価を行いました。

■結果
子どもの頃に逆境体験がなかった人が10968人(63%)、逆境体験が1つの人は5129人(29.5%)、2つの人は964人(5.5%)、3つ以上の人は351人(2%)でした。そのうち、約3年間の追跡期間中に認知症となった人がそれぞれ414人(3.8%)、220人(4.3%)、46人(4.8%)、23人(6.6%)でした。年齢、年齢、性別、教育歴、子どもの頃の経済状況、身長(子どもの頃の栄養状態)の影響を取り除いて解析した結果、子どもの頃に逆境体験がなかった人に比べ、3つ以上逆境体験を経験している人の認知症リスクは2.2倍でした。成人期以降の社会経済的状況(収入、最長職)、社会関係(婚姻、友人と会う頻度、社会参加、就労状況)、健康行動(喫煙)、健康状況(高血圧、糖尿病、脳卒中、心臓病、うつ、耳の病気、BMI)を調整すると1.8倍となり、成人期以降の社会環境や健康状態が67%媒介していることもわかりました。7つの逆境体験を個別にみてみると、それぞれの逆境体験を経験していない人に比べ、身体的虐待を経験している人は2.6倍、ネグレクトを経験している人は1.3倍、精神的虐待を経験している人は1.6倍認知症リスクが高くなっていました。

■結論・本研究の意義
子どもの頃の厳しい生活環境は、高齢期になっても、成人期の社会経済的状況とは無関係に直接認知症に影響することが示唆されました。

■発表論文
Tani Y, Fujiwara T, Kondo K. Association between Adverse childhood
experiences and dementia in older Japanese adults. *JAMA Netw Open*,