お知らせ, 研究発表

2019.10.08

原著論文「アルコール小売店舗密度が児童虐待相談対応件数に与える影響:固定効果モデルによる解析」が出版されました

この論文は、MD-PhDコース(医学部生が4年生修了時に一旦休学し、博士課程に入学して3年間で博士号を取得、その後医学部に戻り5、6年生の臨床実習等のカリキュラムを終えるコース)に在籍する小山佑奈さんが書き上げた論文です。

Koyama Y, Fujiwara T. Impact of Alcohol Outlet Density on Reported Cases of Child Maltreatment in Japan: Fixed Effects Analysis. Front. Public Health. 2019; 7:265. doi: 10.3389/fpubh.2019.00265

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpubh.2019.00265

【背景】
親の飲酒行動や多量飲酒は児童虐待のリスクファクターの一つとして知られています。また、飲酒行動はアルコール小売店舗数に影響を受けることはこれまでの研究によって示されていますが、アルコール店舗数と児童虐待の間の直接的な関係については、まだはっきりとしたことは分かっていません。

【目的】
本研究では、アルコール小売店舗数が児童相談所における児童虐待相談対応件数に与える影響を調べることを目的としました。

【方法】
2000年から2015年の都道府県レベルのパネルデータを用いて、アルコール小売店舗数の変化と児童相談所における児童虐待相談対応件数の変化の間の関係を調べました。解析には、地域の固有の影響を除くことのできる固定効果モデルを用いり、アルコール小売店舗数として都道府県内の成人千人あたりの小売店舗数を算出し、児童虐待は、虐待種別(身体的虐待・性的虐待・心理的虐待・ネグレクト)およびに虐待者別(父親・継父・母親・継母)に解析しました。

【結果】
解析の結果アルコール店舗数と児童虐待総件数との間には関連が見られませんでした(回帰係数0.98、95%信頼区間-6.30, 8.25
)。しかし、アルコール店舗数とネグレクトの間には正の相関関係が見られ(回帰係数3.08、95%信頼区間0.54, 5.62)、アルコール小売店舗が成人1,000人あたり1店舗増加することで、児童10,000人当たりのネグレクトが3件も増加する可能性が示されました。また、アルコール小売店舗数と父親による虐待の間には負の相関関係が見られました(回帰係数-3.03、95%信頼区間-5.78,
-0.28)。

【結論】
これらの結果は、アルコール小売店舗数の増加が、親の飲酒行動や養育行動に影響を与え、ネグレクト発生の増加を引き起こし、父親による虐待を減少する効果のあることを示唆しました。