この論文は、プロジェクトセメスターという、東京医科歯科大学医学部4年生の学生が研究室に6ヶ月配属する制度によって当教室に所属した三浦理恵子さんが、ハーバード大学のイチローカワチ教授の下に短期留学し書き上げた論文です。
アクセプトされたJournal of Affective Disordersは、うつ病などの気分障害に関する国際的専門誌です(IF2018=4.084)。
Miura R, Tani Y, Fujiwara T, Kawachi I, Hanazato M, Kim Y. Multilevel analysis of the impact of neighborhood environment on postpartum depressive symptoms. J Affect Disord. (in press)
【背景】
日本では10人に1人の母親が産後うつを経験します。うつの個人的、社会的なリスクファクターについては報告されてきましたが、近所の環境に関する研究は少ないのが現状です。そこで本研究では、日本人女性における近所の環境と産後うつの関連について調べました。
【方法】
2012年に名古屋市で3,4か月健診の際に実施した母親を対象とした質問紙調査のデータを用いました。産後うつ症状は、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)で評価しました。近所の環境は、地理情報システムに基づき、産後の母親が日常的に訪れるスーパー、コミュニティセンター、遊び場の小学校区ごとの数で評価しました。データの階層構造を考慮して、有効回答の得られた2298名を338の小学校区にネストし、マルチレベル分析を行いました。
【結果】
母親の年齢などの個別要因で調整し、遊び場の多い小学校区に住んでいる母親の方が、EPDSが低い、つまり産後うつになりにくいという関連がみられました(回帰係数: -0.12、95%信頼区間: -0.24, -0.01)。遊び場以外の環境要因で調整した後も同様の関連がみられました(回帰係数: -0.14、95%信頼区間: -0.27, -0.02)。
【結論】
これらの結果は、近所に遊び場があることが産後うつに予防的な効果があることを示唆しました。