研究発表, お知らせ

2025.09.02

論文「低出生体重、小児期逆境体験、および自然災害と子どもの遅延割引との関連」がアクセプトされました!

助教の寺田周平さん、特任助教の前田裕斗さんの論文「低出生体重、小児期逆境体験、および自然災害と子どもの遅延割引との関連」が Journal of Developmental Origins of Health and Disease (IF: 1.5)にアクセプトされました。

本研究では、東日本大震災の被災地域の子どもを対象に、低出生体重や小児期逆境体験、自然災害体験が「遅延割引」に与える影響を検討しました。その結果、低出生体重や震災前の複数の逆境体験をもつ子どもは、目先の小さな報酬よりも大きな将来の報酬を選びやすい傾向が示されました。

(書誌情報)

Terada S, Maeda Y, Surkan PJ, Fujiwara T*. Associations between low birth weight, childhood adversity, and natural disaster with delay discounting among children. J Dev Orig Health Dis. 2025 Sep 2;16:e32.

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40891140

【背景】
DOHaD仮説によると、2500g未満で生まれた子ども(低出生体重児)は、胎内での栄養不足を補うために追加の資源を求めるようにプログラムされていると考えられています。しかし、この考え方が「delay discounting(遅延割引)」と呼ばれる行動特性と関連しているかは、これまで研究されてきませんでした。遅延割引とは、「多いけれど時間を待たないと得られない報酬」に比べて「少しだけど今すぐに得られる報酬」選ぶ傾向を指します。さらに、出生後の要因として、小児期逆境体験(ACEs)や自然災害の体験も遅延割引に影響する可能性があります。

【目的】
本研究では、低出生体重、ACEs、そして自然災害の体験と遅延割引の関連を明らかにすることを目的としました。

【方法】
本研究は、2011年の東日本大震災の被災地域から167人の子どもを対象とした前向きコホート研究です。出生体重および震災前後のACEsは、2012年に実施した保護者への質問票で把握しました。震災中のトラウマ体験については、小児精神科医または心理士による半構造化面接で評価しました。2014年には、子ども(平均年齢8.3歳)を対象に、コインを使った実験で遅延割引を測定しました。子どもたちは最初に5枚のコインを持ち、「すぐにもらえるお菓子(コイン1枚あたり1個)」と「1か月後にもらえるお菓子(コイン1枚当たり2個)」のどちらに振り分けるかを選びました。従属変数は、今すぐに使うコインの数で、Poisson回帰を用いて各要因との関連を推定しました。

【結果】
低出生体重の子どもは、今すぐの報酬にコインを振り分ける数が0.68倍(95%信頼区間: 0.46–1.00)低い傾向がみられました。また、震災前に3つ以上のACEsを経験していた子どもも、即時報酬を選ぶ割合が低く(IRR: 0.58, 95% CI: 0.37–0.91)、より遅延報酬を選ぶ傾向がありました。一方で、震災後のACEsや震災中のトラウマ体験とは関連がみられませんでした。

【結論】
低出生体重や震災前に複数のACEsを経験した子どもは、遅延割引が低い(=待つことができる)傾向を示しました。これは、より多くの資源を得るための適応的な戦略が発達している可能性を示唆しています。