研究発表, お知らせ

2025.04.09

論文「暑さ指数と常位胎盤早期剝離の関連」がアクセプトされました!

助教の寺田周平さんの論文「暑さ指数と常位胎盤早期剝離の関連」がBJOG: An International Journal of Obstetrics and Gynaecology (IF: 4.8)にアクセプトされました。

常位胎盤早期剥離は、産科医にとって母体と胎児に関わる緊急事態です。今回、日本産科婦人科学会の周産期登録データベースを用いて、暑さ指数が極端に高い日の翌日に常位胎盤早期剝離の発生が一時的に増加していたことを明らかにしました。

(書誌情報)
Terada S, Nishimura H, Miyasaka N, Fujiwara T. Heat Stress and Placental Abruption: A Space–Time Stratified Case‐Crossover Study. (in press)

【背景】
近年の気候変動により、暑さが妊婦や胎児の健康に与える影響が注目されている。「常位胎盤早期剝離」という、胎盤が出産前にはがれてしまう重篤な合併症について、暑さとの関係はこれまで不明だった。

【目的】
妊娠中に強い暑さにさらされると、1週間以内に常位胎盤早期剝離が起こりやすくなるかどうかを調べることを目的とした。

【方法】
2011年から2020年の夏季(6月〜9月)に、日本全国11地域で出産した6,947件の常位胎盤早期剝離のデータを使用した。WBGT(湿球黒球温度)という、気温・湿度・日射を総合した熱ストレス指標(いわゆる暑さ指数)を用いて、その日の暑さが発症に与える影響を、最大7日間の遅延効果を考慮して解析した。分析には、ケースクロスオーバー法という統計手法を使った。

【結果】
強い暑さ(暑さ指数95パーセンタイル以上)の翌日には、常位胎盤早期剝離のリスクが23%高まることが確認された。一方で、その2日後にはリスクがやや下がる傾向も見られ、1週間全体で見るとリスクの増減が打ち消し合うような形となっていた。妊娠週数による違いは大きくなかったが、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全がある妊婦では、暑さの翌日にさらに大きくリスクが上昇していた。

【結論】
妊娠中に強い暑さにさらされると、その翌日に常位胎盤早期剝離が起こるリスクが高まり、もともと起こるはずだった胎盤早期剥離の発症時期が暑さにより1日程度早まってしまう可能性が示唆された。とくに妊娠高血圧症や胎児発育不全がある妊婦では、暑さへの注意がより重要と考えられる。