研究発表, お知らせ

2021.09.29

論文「学童期における子ども虐待とメンタルヘルス:日本における縦断研究」がアクセプトされました

伊角特別研究員(学振PD)の論文「学童期における子ども虐待とメンタルヘルス:日本における縦断研究」が疫学分野のトップジャーナルであるAmerican Journal of Epidemiology(IF=4.897)にアクセプトされました!

本論文では、著者らが東京都足立区と共同で2015年度より実施している「子どもの健康・生活実態調査」の縦断データを用いて、小学校1年生〜4年生における虐待傾向が子どものレジリエンスおよび問題行動と関連していることを明らかにしました。固定効果モデルを用いることで、時間で変化しない未測定の交絡因子(保護者や子どもの特性、遺伝的要因など)を考慮した上で、虐待と子どものメンタルヘルスの長期的な関連を示した重要な論文です。

Isumi, A., Doi, S., Ochi, M., Kato, T., & Fujiwara, T. Child Maltreatment and Mental Health in Middle Childhood: A Longitudinal Study in Japan. American Journal of Epidemiology. in press.

【背景】虐待によって生じる有害なストレスは、その後のメンタルヘルスにも影響を与えうる。しかし、虐待とメンタルヘルスの関連を検討した先行研究では未測定の交絡因子が考慮できていないものが多い。そこで本研究では、未測定の交絡因子を考慮した上で、小学低〜中学年における虐待とレジリエンスおよび問題行動の関連を検証することを目的とした。
【方法】東京都足立区における全公立小学校の1年生全員を対象に2015年から実施されている縦断調査「子どもの健康・生活実態調査」のデータを用いた。2015年(小学1年時)、2016年(小学2年時)、2018年(小学4年時)すべてにおいて有効回答であった2,920名を対象とした。3時点の虐待傾向、レジリエンスおよび問題行動(すべて保護者による回答)の関連について、個人内の要因を除去できる固定効果モデルを用いて解析を行なった。
【結果】時間で変化しない未測定の交絡因子、時間で変化する測定された交絡因子、調査年度を調整した結果、小学1年生から4年生において、虐待はレジリンスおよび向社会的行動と負の関連(係数:-0.89, 95%信頼区間:-1.05, -0.72; 係数:-0.03, 95%信頼区間:-0.05, -0.003)、問題行動と正の関連(係数:0.32, 95%信頼区間:0.27, 0.37)があった。さらに男女それぞれでも同様の関連が見られた。
【結論】小学低〜中学年における虐待は、長期にわたりレジリエンスや向社会的行動の発達を阻害し、問題行動を引き起こす可能性が示唆された。今後の研究では、虐待を受けた子どもたちのメンタルヘルスにとって、介入可能な保護因子は何かを検討する必要がある。