その他, 研究発表

2025.04.30

論文「子ども期のスポーツクラブ参加経験と社会経済的不利と高齢期の機能障害との関連」が アクセプトされました。

谷准教授の論文「子ども期のスポーツクラブ参加経験と社会経済的不利と高齢期の機能障害との関連」が Scientific Reports (IF: 3.9)にアクセプトされました。

(要約)
子どもの頃に貧困といった社会経済的不利な環境で育った場合、高齢期に機能障害リスクが高まることがわかっていました。今回、子どもの頃に部活動などのスポーツクラブに参加経験があると、子どもの頃の経済的不利による高齢期の機能障害リスクが緩和していたことを明らかにしました。

(書誌情報)
Tani Y*, Fujiwara T, Yamakita M, Kondo K. Childhood sports club experiences mitigate the association between childhood socioeconomic disadvantage and functional disability in older Japanese men. Sci Rep, vol 15, 14371 (2025)

【タイトル】

子ども期のスポーツクラブ参加経験は社会経済的不利による高齢期の機能障害を緩和する

【背景】

家事や金銭の管理、交通機関の利用といった日常生活を送る上で必要な生活機能の低下(生活機能障害)は、本人のQOLの低下や健康リスクとなるだけでなく、介護者の負担につながります。子ども期の生活環境が悪いと、その後の機能障害につながることがわかっていますが、このリスクを軽減できる要因については不明でした。我が国には部活動という課外活動があり、子どもの運動面だけでなく、心理的発達や社会的つながりを育むことに寄与している可能性がある。そこで、本研究では、子ども期にスポーツクラブに参加した経験が、子ども期の社会経済的不利による高齢期の生活機能障害リスクを緩和するかどうかを検証しました。

【方法】

2016年に実施したJAGES(Japan Gerontological Evaluation Study, 日本老年学的評価研究)調査に参加した65歳以上高齢者16,095名を解析対象者としました。生活機能は、高次の生活機能評価指標である13項目からなる老研式活動能力指標で評価し、10パーセンタイル未満のスコアを生活機能障害と定義しました。子ども期の生活環境は「あなたが15歳当時の生活程度は、世間一般からみて次のどれに入ると思いますか。」という質問を用いて、上・中・下の3群に分けました。子ども期のスポーツクラブ経験は、6-12歳、13-15歳、16-18歳の3つの期間のうち、スポーツクラブに参加していた期間の合計数を算出しました。

【結果】

男性では、子ども期のスポーツ経験が0(無し)だった59.2%、1期間だった人が27.5%、2期間以上だった人が13.3%だった。女性では、子ども期のスポーツ経験が0(無し)だった75.5%、1期間だった人が17.8%、2期間以上だった人が6.6%だった。男女ともに、子ども期スポーツクラブ参加経験期間が長いほどリスクが低かった。男性では、子ども期の生活環境が低いほど、スポーツクラブ参加経験による機能障害リスク減が大きく、緩和効果が認められた。男性では子ども期の生活環境が「下」群では、スポーツクラブ参加期間が0の場合は機能障害割合が20%であったが、スポーツクラブ参加経験が2期間以上の場合は機能障害割合が6%だった。女性では、子ども期の生活環境のレベルに関わらず、2期間以上スポーツクラブに参加した経験があると機能障害リスクが40%低かった。


【結論】
子ども期のスポーツクラブ参加経験は、男女ともに高齢期における機能障害リスクの低さと関係していました。男性では、子ども期のスポーツクラブ参加経験が、子ども期の経済的不利による高齢期の機能障害リスクを緩和しました。社会経済的に恵まれない子どもたちが利用できるスポーツ環境を整えることが、その後の生活機能の向上に寄与するかもしれません。